【学生向け】超入門!卒業論文の書き方
今回の記事では,卒業論文をこれから書く大学4年次生向けに「卒業論文とはなんぞや」ということについてまとめたいと思います.
とは言え,仰々しく書くつもりもありません.
「レポートの作成はしたことあるけど・・・」「作文と論文って何が違うの?」と思っている学生に対してとっかかりとなる解説をしていきたいと思います.
ここに書く内容は仙台大学の,すくなくとも私の研究室の学生をイメージして記します.
卒業論文の様式や作法,スタイルなどは各研究室や学部,大学,学問領域によって大きく異なります.
唯一絶対の正解はありませんが,最低限気をつけて欲しいことや守って欲しいことを整理していきます.
Chapter 0.卒業論文とは
卒業論文(以下,「卒論」と省略する)は,大学生にとっては「卒業する前の最後の難関」といったイメージでしょうか.
大学で学んだ専門的な知識を活用して,自分の中に湧き出てきた問題意識や課題について探求していく営みなどということができます.
しかしながら,単に文章を書けばいいというものではありません.ましてやあなたの感想など必要ないのです.
卒論では,すでに明らかになっている事実(事実らしいもの)をもとに,新たな知を創出すること目指すこととが求められます.
とは言え,「世紀の新発見!」を大学生が成し遂げる可能性は極めて低いでしょう.
したがって,身の回りの些細なことから着想を得て,関連する事柄を調べて,それらを整理し,自分の言葉でまとめて発表することこそが卒論の意義だと私は考えています.
そしてその取り組みを行うために,ある程度の知識を身につけ,調べる方法を学び,文章の書き方を学び,発表の仕方を学ぶ必要があるでしょう.
この一連の学習活動は社会に出ていく前に身につけておかなければならない能力・スキルであると思います.
それでは,次から卒論の構成について見ていきましょう.
Chapter 1.タイトル
レポートではタイトルをつけることはそう多くないと思います.
しかし,卒論ではタイトルが必要になります.しかも極めて重要な要素になります.
タイトルは,その研究が何を対象とした研究なのか,どのようなことを目指した研究なのか,あるいはどのような手法を用いたのか,読み手にわかってもらう必要があります.
したがって「●●についての一考察」や「◯◯の研究」など極端に短いものはふさわしくありません.
逆に「◯◯◯◯◯◯◯◯の△△△△△△における××××を活用した研究:●●と▲▲を対象として」というような極端に長すぎるものもふさわしくありません
ポイントは端的に研究の内容を表すということです.シンプルだけど内容が伝わるタイトルは良いタイトルと言えるでしょう.
さて,一般的にタイトルを掲載する表紙の次には,目次が入ると思います.
今回は目次については割愛し,次から本文に入っていきたいと思います.
Chapter 2.序論/緒言/背景/はじめに
どのような言葉を使うかは,その人のセンスに依ると思います.
いずれの言葉を用いるにしても,ここで書くべきことは,「なぜこの研究を行う必要性があるのか」ということです.
卒業論文の場合,様々なバックグラウンドを持つ先生が読みます.そのため,ここでは問題の所在を丁寧に解説する必要があります.
みなさんの中で「常識」だと思われるようなことでも,しっかりと丁寧に書くように心がけましょう.例えば「オリンピックにおける柔道」のお話をする際,次のような文章で説明します.
「1882年に嘉納治五郎によって創始された柔道は,1964年の東京オリンピックから正式種目として採用され,現在では男女それぞれ7階級の14階級に加えて男女混合の団体戦の15のカテゴリで試合が行われる」
ともすれば冗長(長ったらしい,余分な情報が多い)な表現に見えますし,その世界の人には当たり前のことでも,どのような人が読むのかわからない卒業論文ではなるべく丁寧に説明する方がベターだと考えます.
また,卒論ではしばしば「本研究の動機」として,研究者(卒論を書いている学生)の自分語りを入れることもあります.
卒論の場合,身近な些細な出来事や疑問を出発点としている場合が多く,社会的な課題や画期的な発想に基づく研究ではない場合があります.
修士論文以上では,書く必要はまず無いと思いますが,卒業論文に限っては「本研究の動機」という見出しがあってもいいのではないか,と私は考えます.
Chapter 3.先行研究の検討
レビュー論文を除いて,通常,問題の所在を記した次は,関連する先行研究を整理しておく必要があります.
学問は,しばしば「巨人の肩の上に立つ」と形容されます.自分一人で0からひとつひとつ積み上げた研究はありません.
どこかの誰かが必ず関連する研究に取り組んでいます.また過去の先人たちがコツコツ積み上げてきた知の基盤の上に立って我々は今の世界を見ています.
そのため,関連する先行研究を調べて整理することは非常に重要な作業になります.
例えば,「1970年代から90年代までは◯◯についての研究が多かった.特に△△は〜」というようにその世界の有名な研究を抽出して,過去の研究を整理していきます.
現在では陳腐化された知識でもその当時の研究があって今につながるわけですから,抽出しつつ適切に批判し,自分の研究で取り組みたい問題点を整理していくことがこの章で求められます.
卒業論文では,ページの制限はありません.
自分が取り組む研究の前提条件を整理しておくためにも時間をかけるべき章となります.
Chapter 4.研究の目的
問題の所在を明らかにし,その問題に関する専攻研究を整理したら,いよいよ自分の研究の目的を記します.
この時,大風呂敷を広げてはいけません.
自分の研究ではどこからどの範囲が明らかにできるのか,分を弁えた書き方が求められます.
ここではタイトルと同様にシンプルでわかりやすいものが好まれます.
卒業論文の場合,3〜4行程度になることもしばしばあります.しかし,全く問題はありません.
Chapter 5.研究方法
続いて研究の方法を書きます.
ここでは,一般的に①誰or何を対象としたのか,②どのように調査or分析したのか,統計処理を施したのであればどのように施したのかを記します.
私の専門である体育科教育学の研究で,授業に介入した場合などは,ここでどのような授業にどういった介入をしたのか,授業計画はどうか,どのような教材を用いたかを過不足なく明示します.
研究方法を示す目的のひとつは,再現性を保証することにあります.
「こんな対象者に,こんなことやったら,こんな結果が出たよ!」というように,研究のプロセスとそれに伴って得られた成果(プロダクト)を明確にすることは非常に重要です.
Chapter 6.結果
研究方法まで明記できたら,いよいよ結果です.
ここでは機械的に得られた結果を整理していきます.つまり,自分の考えや感想などを入れてはいけません.
わかりやすい表現をすると「対象者(n=60)のうち,45名は「猫より犬が好き」ということが示された.一方で「犬より猫が好き」は2名であった」というようなイメージです.
ここで「対象者(n=60)のうち,45名もの対象者が「猫より犬が好き」と回答した.」という表現をしたくなるかもしれませんが,これはあまり好ましくありません.
上のような書き方だと「45人もおったんか!めっちゃ多いやん!」という研究者の主観が見え隠れしています.
あくまでも淡々と事実を整理して記すことがここでは求められます.
事実を事実として淡々と記す,主観を限りなく排除した書き方をしましょう.
Chapter 7.考察
さぁ,いよいよクライマックスです.
考察とは,ここまでで得られた先行研究の知見と自分が行った調査の結果から見えてくる事実(らしきものごと)を整理する章です.
YouTubeでよくあるマンガの今後の展開を予想する動画のことを「考察」と配信者は言いますが,あれは予想です.考察ではありません.
考察とは,これまでに蓄積された知と自分の調査・実験結果を照らし合わせて,事実(らしきものごと)を述べることです.
体育科教育学を例に言えば,授業に介入して得られた結果を先行研究に照わせると,なぜそのような結果になったのか,その要因を整理することで見えるものがあるはずです.
Chapter 8.結論/結語/まとめ/おわりに
結論では,論文全体を振り返ります.
各章ごとに段落を設けて,それぞれの章で述べたことを端的に整理していきます.
卒論全体の量にもよりますが,多くてもA4 1ページくらいに留めるようにしましょう.
そして結論の最後に「今後の課題」を記します.
研究をしていく過程で,「この点はよくわからなかったなぁ」という点が出てくると思います.
あるいは「この次はこれをやるぞ!」というように次の研究に関心が移っている場合もあるでしょう.
そのような事柄を記すために「今後の課題」を記しておきましょう.
Chapter 9.文献リスト
論文の末尾に,必ず文献リストを記しましょう.
上でも記しましたが,学問は「巨人の肩の上に立つ」と言われます.
先人たちの知見をもとに新たなオリジナリティを積み上げるのが学問の世界であり研究という営みです.
そこにはパクリやでっち上げがあってはいけません!
論文で参考にした文献,引用した文献は必ず末尾のリストに掲載しましょう.引用した箇所にも引用したことが分かるようにする必要があります.
研究不正には,盗用,盗作,剽窃,捏造など様々なものがあります.
どこからどこまでが自分のオリジナルのか,しっかりと分かるようにしましょう.
おまけ 謝辞
卒論をはじめ,修士論文,博士論文では様々な先生にお世話になります.
またアンケートやインタビューに協力してくれた方もいると思います.
あるいは対象者を紹介してくれた人などもいると思います.
謝辞とは,それらお世話になった方への感謝の言葉です.
これは論文の本文ではありませんので,自分の思うがままに感謝の気持ちを記せば良いと思います.
さて,この記事で記したのは卒論の概要に過ぎません.
研究の進め方は人それぞれ異なると思います.
しかしながら,ここに示す内容がこれから卒論に取り組む学生にとって何かのきっかけになればと思います.
卒論は,皆さんの大学生活の成果を手元に残せる記念碑的な役割もあります.
大学生活を通して成長した自分の記録として,また研究に頑張って取り組んだ成果として手元に残るものです.
少しでも質の高い研究ができるよう,頑張ってください!期待しています!